奪ふ男
ジョーカー 2−13 (1/4)
戻る / 目次 / 進む
「ねえ、何の話してるのぉ?」
西島が後ろから僕の肩越しに甘ったるく問いかける。困った顔をした榊を尻目に、僕は笑顔を作り上げた。
「ごめん。西島さん。ちょっと榊とサボるから、うまくやっておいてくれないかな? 西島さんにしか頼めないんだ」
他の奴にだって頼めるけど、今ちょうどやって来たのが西島だったから、そう頼んだ。西島がいると榊は話せないような内容らしいし、邪魔でもあった。
西島は僕の言葉に頬が緩んでいた。
「智明君にそんなこと言ってもらえるなんて嬉しいな。うん、わかった大丈夫、任せて。って言っても、一人や二人、いてもいなくてもいいような式だけどね」
すでに一学期の終業式を経験している身としては、よくわかる。
適当なものだったし、式に出席しようがしまいが、気づかれないだろう。
僕のクラスの列は講堂へと進んでいく。
教師に見つからないようにと、渡り廊下から離れて校舎の影へと僕と榊は向かった。
「どういうことだ、ルリがやばいって」
人気のなさを確認したと同時に僕は榊に迫った。
「俺たちが入学する前にその陸奥って奴には、校内に付き合っていた人がいたんだってさ。でも、二股だとか三股だとかしていたらしいんだ」
それは褒められたことではないだろうけれど、僕としては、だからどうした、という感じだ。陸奥に前に彼女がいたとか、興味ない。これがルリの話だったら、身を乗り出して聞くだろうけれど、興味のない人間の過去なんて、それこそ本当にどうでもいい。
それに、二股三股するような陸奥だから、ルリと別れる結果となったのだから、一概に悪いとは言えない。前の奴と同じく、最悪でルリと付き合う価値もない男だとは思うけれど、まったく僕の誘いに乗らない男よりは、いい結果を生んでくれる。
「タチが悪いっていうのはそれだけじゃなくて……タカってたらしいんだ」
「何を」
「金をだよ。付き合っていた彼女に、バンドに必要だからって言葉巧みに金を貢がせまくっていたんだと。客が来なくてバンド存続の危機、お前しか助けてくれる奴はいないんだよ、とか言って」
……金?
何かがカチリと噛み合いそうな気がした。
でも僕は榊の次の言葉に耳を傾け、思考に浸らないことにした。
「当時、校内で付き合っていた彼女さんはさ、さんざん貢がされた挙句、二股三股かけられたことを知って、本気の別れ話を持ち出したんだ」
そんな陸奥の昔の彼女の話なんて興味ないんだけど。陸奥自身にも興味ないのに。
「何を言われようと別れる、二度と顔も見たくない、って言われた陸奥は、激怒したんだよ。自分が悪いってのを棚に上げて。それで、暴力を、振るった」
乱暴な男なんだな。
ライブのときに感じた、危険だという心の警告は、このためなのか、と腑に落ちた。
陸奥の人間性が良いものだと信じていたわけではない。逆に、やっぱりね、と感じる。ルリと付き合う価値のある人間ではなかったのだと、再確認できた。僕よりはるかにレベルの低い男と、別れさせたことは良かったのだ。
でも。
「それがどうしたっていうんだ。僕やルリに何の関係が?」
昔、そんなことがあったと聞いたって、別に何とも思わない。興味のない人間と、見知らぬ人間の間のことだ。世の中、殺人事件も傷害事件も腐るほど起こってる。興味のない人間の起こすことを、いちいち気にしてられるか。
表情一つ変えない僕に、榊は不愉快そうに顔をしかめた。
戻る / 目次 / 進む
stone rio mobile
HTML Dwarf mobile