奪ふ男
ジョーカー 2−5 (1/4)
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ルリとの会話は、夏休みの間ではそれが最後だった。
お盆を過ぎてから、ルリの部活とバイトは忙しさを増したようで、僕と会える都合はまったくつかなかった。
つまり、お盆から九月まで、僕はルリに逢えなかった。
潤いのない夏休みだった。耳に残っているのはルリの声でなく、うるさい蝉の声だった。
二学期になってルリと会ったとき、僕は驚いた。
ルリの制服のスカートが短くなり、シャツも上のボタンを開け、ちょっと着崩した感じになっていた。そして髪があかるい茶色になって、ゆるゆると巻かれていた。
「イメチェン?」
「うん。どうかな?」
「かわいいと思うよ」
個人的には、ルリにはもうちょっと暗い色の方が落ち着いていいと思う。けど、たまにはこういうのもいいかもしれない。
僕の言葉にルリは笑顔になった。近くで見ると、化粧もしている。これも、ナチュラルというより派手目で軽い印象。
軽さは化粧だけじゃない。
夏休み明けのルリはあかるくなっていた。
一学期のルリは、朝に教室に入るのもぎりぎりで、チャイムが鳴るまで僕と一緒に中庭でおしゃべりに花を咲かせていた。友達がいない教室は居づらかったのだろう。
けど、新学期のルリは、まっすぐ教室に向かい、大きなあかるい声であいさつし、積極的に他の人に話しかけ、笑顔を振りまいていた。
夏休み前は僕にべったりだったのに。周囲も変化に目を丸くしている。
どうしたというのだろう、ルリは。
僕が不思議に思いながらどうする時間もなく、あんなに悩んでいたのが嘘のように、あっという間にルリはクラスで友達を作ってしまった。
「あれ、金原が教室で昼飯なんて珍しいじゃん」
隣で榊がパンの袋を開けた。
僕は弁当を無言で開ける。ルリの作ってくれた、和風の弁当。ルリは高校に入ってから、お弁当を毎日僕の分も作ってくれていた。今日の弁当もそうだ。
「智明君、一緒に食べよ」
西島が僕の前の席にやってきて座る。他にも同じようにやってきた女子を西島は威嚇して追い払っている。
僕は弁当に目を落としている。ほうれん草の入ったきれいなだし巻き卵を箸で取りながら、朝のルリとの会話を思い出した。
『はい、お弁当。……それで、あのね、今日はクラスの女の子たちと一緒にご飯食べたいんだ。誘ってくれたんだよ。高校入ってから、智明以外の友達と誘われたの初めてだよ……』
とても嬉しそうなルリの笑顔が、網膜に焼き付いている。
ルリの笑顔を見れるのは、僕もとても嬉しい。
けど、面白くない。
つまらない――いやそれどころじゃない。腹立たしいのだ。
せっかく一学期からルリの周囲から人を排除してきたというのに、元の木阿弥だ。こつこつ築いてきた積み木が一気に崩れた。これからまた、一から排除していかなくてはならない。
とりあえず注意するのは、今日ルリと昼食を取っている奴らだ。
「谷岡さん、友達できたようで良かったな。お前ももう変なことをするなよ?」
咎めるような榊の横からの視線。僕はルリの作ったひじきの煮付けを食べながら、無視してうなずかなかった。
「おい……マジでやめろよ?」
再度、榊は言う。横顔に突き刺さる視線は痛いが、僕は黙ってルリの弁当を食べる。
榊は眠たそうな顔のくせに、ピンと張り詰めた空気を作っていた。関係ないくせに。
……まさか。
「榊って、ルリのことが好きなの?」
榊は垂れた目を丸くして、瞬いた。
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