奪ふ男
ジョーカー 2−4 (1/4)
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「ルリ!」
追いかけて、姿をようやく見つけたのは、靴箱の前だった。ルリは靴を履き替え、校舎を出て行く。僕も慌てて外靴を履き、その背に追いすがる。
「ルリ、西島の言ったことは全部、嘘だから!」
ルリは足を止めて、僕を見てくれた。
「迷惑なんて思ってない! ルリと一緒にいれるのは、むしろ嬉しいんだよ!」
こわばっていたルリの表情がほぐれていく。ルリの濡れた瞳が揺れた。
しかし、ふるふると水に濡れた子犬のように、ルリは首を振る。
「私……一人でもいいんだよ」
ぽつりとルリは漏らす。動揺しながらまくし立てる。
「一人でいたって、空に浮かんだ雲の数を数えたり、葉っぱの数を数えるのも、悪くないんだよ。別に一人でお昼を食べるのだって、慣れれば何ともない。だから……」
嘘つき。とても寂しそうな顔で、そんなことを言うなよ。
「寂しいとか言って、同情させてごめん。智明に迷惑かけて、ごめん」
「ルリ。本当に、西島が言ったようなことは、僕は全然思ってない。迷惑なんて考えたこともない。僕はルリと一緒にいて嬉しい。本当に嬉しい。西島の言ったことは全部忘れて。他はどうだっていいと思おうよ。ルリだって、僕さえいれば寂しくないだろ?」
僕だけを見るよう、ルリの両肩をつかむ。
寂しいと言われてから、僕は努力してきた。以前よりもっと濃密に二人で過ごしてきた。ルリからは次第に寂しさの影が薄れてきたというのに。
僕を揺れる瞳で見上げながら、ルリはまたも首を振る。
「……ダメ」
「何が? 何か悪かった?」
「悪くないって思っちゃうことが、ダメなんだよ」
意味がよくわからなかった。
悪くないと思うなら、それでいいじゃないか。なんでダメなんだよ。
ルリはかすかに苦悶の表情を浮かべ、やはり首を振る。
「このままじゃダメ。やっぱりいけない。だめだ私。ちゃんとしなきゃ……」
「何が、何を」
僕はじりじりと焦ってきた。
「榊君の言うとおりだ。私、このままじゃいけない……私、自分が、恥ずかしい……」
え、と僕は反応した。
「智明に恥ずかしいと思われない、ちゃんとした人になりたい」
「恥ずかしいなんて、何言ってるんだよ」
「思ってるでしょ? だから智明は他の友達に私を紹介してくれないんでしょ?」
僕の、他の友達?
僕には友達と思っている人間なんていない。ルリだって、現状は友達であるけれど、友達であることに満足したくない人だ。
僕の周囲に群がる西島のような奴らが友達だというなら、誰だって友達だろう。でもルリは、そんな西島たちのことを『友達』と指しているらしい。
「幼なじみってだけで、他に友達もできないし、取り柄もないし……智明は私のことを他の友達に紹介するのが恥ずかしかったんでしょ?」
紹介なんてするはずがない。
ルリに友達を作らせないようにしているというのに、どうしてそんな馬鹿げたことをしなければいけないんだ。
取り柄がないだとか、ルリは卑屈になりすぎている。最近弱くなっているとはわかっていた。その弱さが、卑屈さに繋がったのだろうか。
「ルリ。変なことを考えないで。榊のことも西島のことも、全部忘れて。僕はルリと友達でいたいから」
「私だって智明と友達でいたい。でもこれじゃだめ。私、変わらなきゃ……」
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