奪ふ男
ジョーカー 1−6 (1/4)
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確実にルリは僕を避けていた。
次の日の朝は、登校するところにも出くわさなかった。学校でも会えなかった。
その次の日も会えない。どうやら登校時間を変えたらしい。
その翌日になって、僕は少し遅めに登校することにした。ルリに会えると思って。だけど、その日も会えなかった。どうやら遅刻したようだ。でも、学校でも会えない。
その頃には、鈍い僕も薄々感づいてきた。ルリが僕を避けていること。何があっても僕と顔を合わせまいとしていること。
何かを考えるより、僕はただただ呆然としていた。
ある日の夕方、チャイムが鳴ったので家の扉を開けると、そこにいたのは、ルリのおばさんだった。手には煮物の入ったタッパーだ。
「智明君、今日は里芋の煮物を持ってきたのよ。お口に合うといいんだけど」
うちは母さんも父さんも、ほとんど家にいない。だから食事も、食事代を渡されるだけの日が多い。毎回料理を作るのが面倒な僕は、食事を抜くことがある。
そんな状態を見るに見かねたおばさんは、たまにこうやって料理をお裾分けしてくれる。
だけど、いつもそのお裾分けの料理を運んでくるのはルリなのに。おばさん自ら持ってくるのは、かなり珍しかった。
「……ありがとうございます。ところで、ルリは……?」
「瑠璃子? 部屋にいるわよ。いつも喜んで持って行くのにね、ホラ、智明君も瑠璃子も受験生でしょ? 持って行きなさいって言っても、勉強があるからって部屋に籠もってね。ごめんなさいねぇ」
「……そう、ですか」
確かに僕とルリは中学三年生で、今は秋で、学校でも受験だ受験だとうるさい。
けど、本当に勉強があるから?
最近のルリの動きを見ると、おばさんの言うことを信じて楽観的には思えなかった。
それでも僕は楽観的すぎたのかもしれない。
しばらくしたらこんな日々は終わると思っていたから。
でも、いつまで待ってもルリは僕を避け続けた。
いつまでもいつまでも。イチョウは黄葉し、散り始める。空気は刺すような冷たさを増す。葉の散った裸の木がそこかしこにある。
それでも、それだけ経っても猶、ルリは僕を避ける。
僕は逆に楽観的に考えたくなってきたほどだ。受験前なのだから、ルリは避けたくて避けているのではなく、ただ勉強しているだけなのだ、と。
現実の、ルリに会えない辛さに、全てがめげそうだった。耐えられなくて、どこかに逃避したいほどだった。
死にたくなった。
それを踏みとどまったのは、ルリからの直接的な拒絶の言葉を聞いてないからだ。ただそれだけのことに、僕はすがっていた。
もし決定的なルリの拒絶の言葉を聞いたら、僕はどうするだろう……。
ルリのことで悩む一方、僕たちは中学三年生であり、受験戦争まっただ中にあった。学校は徐々に受験の色に染まり、否応なしに勉強に駆り立てられる。
年が明けて、私立の高校へ願書を出しに行った。僕の中学は同じ高校を出願する生徒にグループを組ませ、そのグループで一緒に出願に行かせる。
そこで久しぶりに、ルリと会えた。
同じ高校を受験する以上、同じグループになることは逃れられない。グループで学校を出て、出願する高校に向かう。その途中、僕はルリに話しかけた。
「ねえルリ」
「…………」
ルリは早足で僕の前を歩く。高校までの道のりは全て把握しているようで、歩みに迷いはない。僕が隣に行こうとしても、ルリは足を速め、前に行く。
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