翼なき竜
26.未来の夢(1) (1/4)
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後に女王となるレイラには二人と一匹の親がいた。
一人は、東方出身の、たぐいまれなる美女と謳われた人だった。レイラが物心つく前に亡くなり、イメージしかない。
二人目の親というのは、国王であるエミリアンであった。
レイラは父のことが好きだった。エミリアンはレイラをかわいがり、その立派な勇姿、国王としての素晴らしいところをいくつも見せた。
幼い頃は発言権はなかったが、閣僚会議にも出席して、政治の舞台を知った。
父の決断で、全てが決まる政治。父の決断で、救われる人々。父の決断で、動いていく国。
それらは讃美される。望まれる。嬉しがられる。踊り称えられる。歌い称えられる。
『王は神だ』と父は言う。みながそれにうなずき、にこやかな顔をする。
太陽のような父は、他の星の光を打ち消すほどに輝く。
レイラは父のようになりたいと思った。父のように慕われる、立派な君主となりたいと。
エミリアンの背はいつだって輝いて見えたから。立派で、威厳に溢れ、愛情豊かだ。
幼少期のレイラは単純に、大人になればきっとそうなれる、と信じていた。
最後の一匹の親というのは、竜のギャンダルディスであった。
竜は牢獄のように閉じこめられた場所から、レイラに助言と知識を教える。厩舎の鉄の部屋に、竜は捕らえられている。
外で会えるのは竜狩りに行くときくらいで、ほとんど外には出せない。みんなが竜に驚き怖がるからだ。ちゃんとロルの粉を振りかければ、取って食いはしないのに。
『レイラ、女王になるだけが人生じゃないさ』
台の上に乗って隙間から見るレイラに、ギャンダルディスは青い眼で見上げる。
「王になることより良い人生なんてないに決まってる。父上のように立派で優れた王様になりたいのが、悪い? 国民だってそういう王様なら喜ぶはずだ」
今の父が、国民から慕われているように。
立派ですばらしい王となれば、悪いことなどないだろう。レイラは嬉しい、国民も嬉しいはずだ。国民が嬉しがれば、レイラはもっとがんばるだろう。そしてもっと国民は幸せになってくれて、嬉しがってくれるはず。そこには平和な循環がある。
『エミリアンのような……ね』
竜の冷めた口調に、レイラはむっとする。
ギャンダルディスはいつもそうだ。
他の人は父のことを褒め称えるというのに、この竜は、本当にそうかな、とでも言いたげな斜に構えた態度を取るのだ。
だけどギャンダルディスは特に強く否定するわけではなく、適当に皮肉じみた態度を取るだけで、話題を変換する。
今回もそうだった。
『まあいいや。……ねえレイラ。レイラもそろそろ大きくなって、女王になりたいとか将来の話をするようになったから、言っておくね』
大きくなって、なんて言われるとレイラは笑いそうになった。ギャンダルディスの人間型の幻影を見たことがあるが、同じくらいの年頃の子どもだった。何百年も生きているらしいが、竜としてはまだまだ子どもらしいのだ。
同じ子どもが何を偉ぶって、と思って少し笑った。
ギャンダルディスはそんな笑いとは不釣合いなまじめな顔をしてレイラをじっと見ている。だからすぐに笑いをやめた。
いくら人間の年齢に直すと子どもだからって、レイラにとって親同然ということには変わりない。ギャンダルディスがまじめな顔で話をしようするときに、レイラも黙ってまじめな顔をする。
『レイラ、忘れないで。君は公平でいなければいけないっていうこと』
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