翼なき竜
19.女王の子(2) (1/5)
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「女王陛下の子などと騙るとは、なんて不敬な!」
宰相は頭を回転させると、そう憤慨した。
女王に子なんているはずがない。子どもがそう騙ったのだろう、とデュ=コロワの話の冒頭を聞いて、結論づけた。
「いくら子供とはいえ、何という……!」
デュ=コロワは疲れたように眉間を押さえた。
「……宰相、七年前の事件を覚えているか?」
「七年前? そのころは私はまだ宰相ではなく、東の領地にいて……」
まだ宰相でも、財務顧問でもなかった。
七年前は、国内でもろもろの事件が起こっていた。大きな事件といえば、女王の即位だろうか。
「女王陛下がまだ王女であらせられた当時、王位継承権争いのあったこと、思い出されたか? そのときの事件……」
「あ、はい。陛下と、叔父であるギヨーム様の……」
エミリアンが病床につき、次の王位は誰の手に渡るのか、ということは最も大きな問題であった。
候補は二人。現在の女王と、彼女の叔父でありエミリアンの弟であるギョーム。
当初、次の王位はギヨームの手に渡る、という予測が優勢だった。いかに女王が『泰平を築く覇者』の印を持っていようと、まだ若かったからだ。
それを覆した事件があった。
西の、険しい山に囲まれたガロワという領地に女王――当時は王女が滞在したことから事件は始まった。
しばらくしてからガロワから王女の手紙が王城に届いた。
ガロワが気に入ったので、しばらく滞在すると。
ところがその滞在がどんどん長引くのだった。一週間、ひとつき、数ヶ月……。結果的に、一年。
王城から、戻ってくるよう言っても、何かに理由をつけて戻らない。
城では無責任な王女、という王女の評価を下げる噂が広まった。
王位継承権争いのさなか、王女の無責任さが浸透し、ギョームの即位は確実だと言われた。
ところが、実は王女はガロワ領から出ないのではなく出られないのだ、という情報が、王であったエミリアンの元に入る。ガロワの領地から出ようとしても、三つの関門があって、王女を通さないというのだ。
ガロワ領から出るには、人の通りやすい関門の道を通るか、険しい山を越えるかしかない。
そのとき王女は人を連れていたが、護衛の騎士達の他に、世話をするための女官達もいた。とても山を越えられない。
そこで、王女は立ち往生していたというのだ。
では何通も届いた王女からの手紙は何だったのか、というと、偽造されたものだと調べてわかった。ガロワの領主が偽造したのだ。
即座にエミリアンはフォートリエ騎士団を派遣し、ガロワ城を攻め入らせ、あっという間に落城させる。
ガロワ領はガロワ家の支配から解き放たれ、関門が解き放たれ、王女は脱出できた。
それでよかった、とは終わらない。
問題は、なぜガロワ家の領主が、関門封鎖をして王女を留め置いたか、ということに移った。
ガロワ家の当時の領主は、グレゴワールという男。落城のときに死んだ。
彼の父親はナタンと言い、ギョームと親しくしていた。彼は落城のときから現在まで行方不明だ。
王女が王城からいなくなって、無責任だと吹聴して回ったのは、ギョームである。
その線から、ギョームの身辺を洗ってみると、首謀者がギョームであることがわかった。
そして、王位継承戦争の勃発。
国内の世論は王女側へと傾いていた。そして、現在女王が在位しているように、もちろん王女側が勝利した。
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