翼なき竜
3.有翼の君(2) (1/4)
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竜騎士団長・デュ=コロワの来訪があと二日に迫った日。
その日は急遽、女王の休日となった。
宰相の努力のたまものである。
「本当に、今日は休んでいいのか?」
外出用の赤い布をまとった心配そうな女王に、
「はい! もちろんです!」
と答えた宰相は、目の下にクマができていた。
いろいろと訊きたそうにしていた女王を、宰相は丁寧に執務室から追い払った。
ここ最近の宰相の猛烈な働きぶりを何度も問いただされた。が、本人に話すわけにはいかない。
女王の後ろ姿を見ながら、宰相の瞳が光った。
女王に休暇を与えた以上、宰相も休むわけにはいかない。
本当は女王の後を追い、恋人らしき人物の素性や顔を見たいところだが、立場がある。ここは我慢である。
女王はもちろん、警護のために近衛の兵を何人も連れる。それはいついかなるときも。
兵の中でも憧れられる近衛兵は、武装しながらきらびやかな服装をしている。最も特徴的なのは、緑に染められたダチョウの羽根が兜の上でしなって揺れているところ。
そんな彼らが動くと、彼らの頭上の羽根はひとかたまりに見え、まるで麦畑が移動しているようなのだった。王宮内でも目立つ。
その彼らの中心にいる女王がどこに行くかは、老臣達、老神官でも追っていけるだろう。そしておそらく、女王の相手も明らかとなる。
宰相にできるのは、彼らの報告を待つだけ。
「宰相っ」
しばらくしてから老神官が、宰相の執務室に慌てた様子でやってきた。
宰相は待ち望んだような怖いような気持ちを振り切り、立ち上がる。
「早かったですね。わかったんですか? 女王陛下の……恋人が」
「そうじゃないんじゃ! 陛下が逃げた!」
はあ? と宰相が首を傾げた。
「逃げたって……どこからですか? それとも、誰から、ですか?」
「お付きの近衛兵を置いて、一人で走り逃げおった! 信じられん早さじゃった!」
「一人……陛下は今、一人なのですか!?」
宰相はぞっとした。
大国の女王というだけで、それは命を狙われる理由だ。身を守るはずの兵士を振り切り、彼女はなぜ……。
「陛下はどこにいるんですかっ」
「わからん。ただ……」
老神官は口をもごもごと動かす。
「ただ、兵士達に話を聞いたところ……陛下が逃げるのはよくあることだそうじゃ。近衛兵は陛下に毎回口止めされたらしいが……。信じられん」
今まで何度も、女王を一人にしていた?
宰相は目の前にあった書類を思わず握りつぶす。手がぷるぷると震えていた。
ぞっとするどころではない。即刻近衛兵全員クビにしてやるところだ。……近衛兵の人事は女王の権限下にあるから、宰相でもできないが。
「この前の休暇の時も、同じように逃げられたとのことで……。もしや、秘密の恋人に会うために、一人になったのではないか、と」
「…………」
「とりあえず、えらいことが起こったと、宰相に伝えに来たんじゃが……」
「わか、りました。私も行きます」
女王が行方不明となれば、執務室で書類仕事をしている場合ではない。
「その恋人に……会うためであれば、前回と同じ場所にいる可能性が高いです。場所を覚えていますか?」
老神官は一度、女王と恋人らしい人との会話を聞いていた人物だ。
「うむ。城内にある、東の森の中じゃ」
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