奪ふ男

ジョーカー 1−7 (5/5)
戻る / 目次 / 進む
 ちゃんとルリが諦め、忘れてくれるっていうなら、僕だって忘れるよ。あいつは高校も違うんだし、未練がないっていうなら、寛大な心で許してあげる。名前も顔も恨みも忘れてあげる。
 また元のように戻れるね。誰も割り込むことのない、二人だけの時間と空間が。
 夢のような心地だった。でも、そのふわふわと空に浮いた風船のような気持ちは、次のルリの言葉で、パン、とはじけた。
「それで、これからも、友達でいよう?」
 ……は?
「とも、だち……?」
 何を言ってるんだルリは。僕が一途にルリを想っていることを知って、それで、友達? たかが友情程度のために鈴山を排除しようなんて思うわけがないだろう。僕の深い想いを知った上で出てきた言葉が、友達?
 笑みが消える。
 僕は抱きしめていたルリの身体を少し離した。肩をつかむ手に力がこもる。
 ルリはおびえたように瞳を揺らす。
「友達……に、戻れない、の? いろいろ悩んだけど、私は、智明と無関係な他人でいたくないと思ってる……んだけど」
 ルリにとっては、無関係な他人と、友達、というのが二者択一なのか? 僕と仲を深めたいとは思ってくれないわけか?
 僕が探るように見ると、ルリは僕の手から離れ、うつむく。
「やっぱり、元に戻れない、のかな。そうだよね、智明にとっても、気まずいよね」
 ルリの言葉の意図が掴めない。気まずい? 何が?
 僕はそれ以上になりたいって思い続けているのに。何がなんでも、ルリにとっては、友達が最大限の譲歩なのか?
 そういえば、ルリは僕を『ただの友達』だとか言っていた。
 ルリには鈍いところがある。僕の想いを知りつつ、まだ、僕と仲を深めたいとまでは思ってくれないってことか。無関係な他人と、友達と、二者択一の……。
 その結論に心の中で落ち込みながら、僕は笑顔を作った。
「友達でいいよ」
 無関係な他人だけは嫌だ。今までさんざん無視され続けていた時の絶望は、もう味わいたくない。
「あ、ありがとう……」
 ようやく、ルリはほがらかな顔を見せてくれた。
 その顔を見ると、身体の中心が熱くなる。衝動的に、寒さで赤くなってきたルリの頬に、軽くキスをする。そのまま耳の側で、ささやいた。
「これからも一緒だね」
 ルリは真っ赤な顔で、キスされた頬を押さえている。
 高校に二人とも合格したことだし、時間はまだまだある。悲観的になることはない。鈴山のような例は、僕たちの間に起こった一種のはしかのようなものだったのだ。一度あれば二度はめったにない。
 空は晴れ渡る。僕たちの高校生活も、きっと晴れて幸せな日々なのだろう。きっと、きっと……。
戻る / 目次 / 進む

stone rio mobile

HTML Dwarf mobile