奪ふ男

ジョーカー 序章 (2/2)
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 すぐに病院へ行って傷は残らず簡単に治った。だけど、ルリは病院で泣きわめき、何度も謝った。
「ごめんねごめんねごめんね……」
 と。
 悪いのは幼稚園児にぶつかった大人だ。でもルリは何度も謝った。
 悪くはなくても、責任を感じたのだろう。僕が大切で心配したからだろう。ぼろぼろと涙をこぼすルリ。かわいい顔が台無しだ。
 僕はそんなルリに、
「だいじょうぶ。ぼく、もういたくないから、きにしないで」
 と言って微笑んだ。
 ルリのくしゃくしゃの顔がぱあっと笑顔になる。
 本当は打った場所が痛くて痛くてしょうがなかったけど、我慢していた。
 ルリに責任を感じ、泣いていてほしくなかった。
 花のように笑っていてほしかったから。

 思えばそのときが、一番よかった。
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