奪ふ男

奪ふ男 前編 (2/3)
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 しかし、四人。付き合う男全てが智明の手に落ちるのを見ると、付き合った男が原因なのではなく、智明が特別なのだと気づいた。
「ルリ」
 後ろから呼ばれたとき、私の肩が跳ねた。
 目の前にいる絵里の顔がひきつっている。  やっぱり、後ろにいるのは……。
 私は小さく深呼吸して、振り返った。
 やはり、間違えようもなく、智明が立っていた。
 智明という男は、男女問わず惹きつける容姿の人間だ。
 実は昆虫のように誰をも魅了する性フェロモンが振りまかれているのではないかと、思ったこともある。
 男らしいタイプではなく、どことなく中性的だ。子供の時は、女の子と間違われたくらい。……いや、美少女だと間違われたくらいだ。つまりもともと美少年だった。
 目元が涼やかで、絶やさぬ笑みは周囲に評判が良い。
 智明は定食をトレイに置いて手に持っていた。
「よかった。席が見つからなかったところでルリを見つけてさ」
 智明はトレイをテーブルに置く。
「ちょっと、勝手に……」
 絵里が口を尖らせるが、智明は笑みを浮かべたままだ。
「誰か別の人のための席なの?」
「……そうじゃないけど」
 絵里が諦めたように言うと、智明は私の隣に座った。
 いただきます、と言って、智明は食べ始める。
 絵里は不愉快さを隠そうともしなかった。
「わざわざ瑠璃子のところに来なくても、大変仲のよろしいボーイフレンドがいるんじゃないの?」
「ん? それが何?」
 一言ですらりとかわされると、絵里はますます苛立つ。
「あんたさあ、いい加減にしなよ」
「絵里」
 私ははっきりと、止める意思をもって友の名を呼んだ。
「次の授業、早く行かないといけないんじゃない?」
 絵里は、あ、とつぶやいた。小さな腕時計に目をやった絵里は、顔をしかめる。
 二人の顔を交互に見、心配そうに私に視線を送ってくる。
 私をここに残していいのか、と思ってくれているのだろう。
 安心させるため、私は鷹揚にうなずいた。
 絵里は行く直前、最後に私にだけ聞こえるように、
「逆恨みでもされてるの?」
 と私のことを案じて訊いてきた。
 逆恨みなら、それこそ私にわかるはずがない。
 でも時折、彼から憎まれているように感じたことはあった。
 私は今でもたまに思い出す。

   *   *   *

 ――中学三年生のとき、初めてできた彼氏の鈴山から、別れを切り出された日。
 別れを切り出されたショックが体の隅まで響き渡っていて、放課後遅くまで私は教室にいた。窓からは木枯らしの吹く秋空が広がっていた。
 そこに、智明が現れたのだ。
 扉はいつの間にか開いていて、学ラン姿の智明が立っていた。声変わりをしたばかりの智明は、それでも中性的なものを残していた。
 智明は笑みを浮かべていた。その笑みがただの喜びや楽しさの感情だけでないことはすぐにわかった。もっと深く、暗い、私に対する強い怒りに似たもの。
 悪意を感じてひるみ、私はシャーペンを取り落とした。セーラー服のスカートの上に落ち、汚い床に落ちる。
 智明は私から決して目をそらさず、口を開いた。
「鈴山君は、僕と付き合うことになったんだ」
 衝撃的で、何の反応も返せなかった。
 確かに、智明は男でも女でも彼氏がいる女でも、彼女がいる男でも、手玉に取れるような魅力に溢れていた。
 私は机の下でこぶしを強く握り締めていた。

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