奪ふ男
ジョーカー 1−1 (4/4)
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そう返事がくることがわかっていた。中学生になってから何度も何度も言われたことだ。
でも僕は意地になる。夏だ。ちょっと羽目を外したっていいじゃないか。ルリは周囲のことを気にしすぎだ。
「前のカップルだって、手を繋いでいるじゃん。僕たちより年上そうだよ?」
「そんなの関係ないよ。手を繋いだら危ない。転んで頭を打ったりしたら、大怪我をするかもしれないでしょ、前のように」
僕は足を止めた。
「……覚えてたんだ」
ルリは夕焼けに染まった赤い顔で、笑う。
「覚えてるよ。忘れるわけないじゃない。傷、残ってないよね?」
ルリは背伸びをして僕の頭に触れ、髪をかき分ける。
「もともと大きな怪我じゃなかったんだから、全然残ってないよ」
くすぐったかった。ルリの触れる指が。ルリが覚えていてくれたことが。
「小学生のときはさ、ああいうことがあっても、智明と一緒にいたかったから単純に手を繋ぎ続けたけどさ。でも、やっぱり手を繋いでいると危ないじゃない。ね、やめよ」
そういう理由なら、僕は何も言えなくなった。ルリがちゃんと僕との思い出を覚えていて、それを大事に思っているゆえのことなら。
「手を繋がなくても、触れ合ったりしなくてもいいじゃない。いつも隣にいるんだから。……そうでしょ?」
そう念押しされてしまえば、僕は肩をすくめるしかない。
手を繋げなかったけれど、それでも僕は今日、満足だった。
ルリは僕のことを大切に思ってくれていることを知った。僕と同じように。
僕とルリのこれからの道はいつまでも隣り合い、こんな日々が続くはず。
……だった。
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