奪ふ男
ジョーカー 1−1 (1/4)
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小学生にもなると、人が群がり始めた。
幼稚園のときだって、かわいい子ね、と大人に頭をなでられることは多かったから、同級生、下級生、上級生の親愛も普通に受け入れた。
僕は人に好かれる。『魅了する』という言葉を覚えるのは先のことだ。僕のちょっとしたことで周囲の人間を一喜一憂させるのは面白い。ほんの少し笑いかけたくらいで大騒ぎになる。
それでもルリは別格だ。
ルリは他のやつらとは違う。僕にやさしくしてくれるのは同じだけど、媚を売ろうとはしない。それでも他のやつらが何人もいるよりも、ルリ一人が一緒にいた方が嬉しい。
すでに隣にいることが自然になっている人だった。ルリも同じだっただろう。
僕が群がる人の相手をしてやっている間に、ルリは他のクラスメイトと話すことがあったけど、それでも僕が「ルリ」と名を呼べばすぐに来る。逆もまた同じ。ルリが「智明」と呼べば、僕はすぐにルリの側に行った。
ルリにとって僕は最優先の人でもあって、それが自尊心をくすぐるのだ。
「智明ってすごく人気者だね。何をやったの?」
不思議そうに尋ねられたことがあった。僕は肩をすくめる。
「普通に笑いかけたりしただけだよ」
僕にとってはその程度のことだ。笑うだけじゃなくて思わせぶりな行動もするけれど、簡単なことばかりだ。
人が常に群れてくることも、その人たちが競うように媚を売って僕と仲良くしようとすることも、僕にとっては当たり前なことだ。それはこの当時からも変わらない。
ただ面白くないこともある。
小学生は遊ぶ時間が多く、いつもルリと遊ぶ。楽しくて楽しくてたまらない。
だけど、二人で遊んでいるところに他の人がやってきて、一緒に遊ぼうと言うのだ。そういう人たちは僕に媚を売るために来ている。
ルリは一緒に遊んでもいいと言うけれど、僕はむっとする。
僕はルリと遊びたいのだ。ルリと二人だけで遊びたいのだ。他の人に邪魔してほしくない。
そういう邪魔は、遊んでいるときだけでなく話しているとき、下校のときも起こってくる。
何度断っても違う人が同じことを言う。僕に群がる人はたくさんいるから、いつまでたっても終わらない。怒りながら困って、結局ルリとの時間以外でそこそこに相手をしてやるしかないとわかった。
そういう面倒さはあったけれど、僕に好かれようと努力している人たちに囲まれることは嫌ではなかった。だってもはや好き嫌いの問題ではないから。それは僕にとっては本当に自然で当たり前の状況だから。
中学になると、状況が微妙に変わり始めた。
ルリは次第に僕を呼ばなくなった。
「智明が呼ぶからいいじゃない」
とルリは言ったけれど、確実にルリは遠慮し始めた。
僕が他の人たちと話していたりするとき、ルリはすぐ近くまで来ても、そのまま背を向けてしまうことがあった。
「だって智明が他の人と楽しく話しているのをわざわざ止めるほどの話じゃないし……」
どうして遠慮するんだよ。
僕はルリに呼ばれたら、他のやつらなんて置いて、最優先でルリのところに行くのに。どんなくだらない話だって、ルリの話を聞きたがるのに。
不満があったけど、まだそれでもそのときはよかった。明確な変化が起こったのは、中三の頃だ。
中三の夏。
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