奪ふ男
奪ふ男 中編 (1/3)
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恋人がいないクリスマスをすごし、冬休みが過ぎ年を越した。
成人式があって、その夜は中学の同窓会があった。
思ったよりも人が集まり、大体は男子、女子、別れて思い出話に花を咲かせていた。
智明はいなかった。そもそも成人式に出席すらしないと、事前に私は聞いていたので、探すこともなかった。
智明が来ないことに、みんな残念そうだった。
彼は中学時代、男子女子共に人気があったからだ。
智明が鈴山と付き合うという噂が流れても、からかいの対象やいじめの対象となることはなかった。
智明は、一種の聖域だった。
実際、本気で智明に惚れていた男子にも何人もいた。それがおかしくないような男、それが智明だった。
薄い唇に乗った笑みは匂い立つような妖艶さに満ち、中性的な容姿とあいまって、その年や性別では考えられない色気があった。
教師ですら智明を前にするといつもの調子ではいれなかった。
同級生は智明が来ないことを惜しみながら、どこかほっとしているようだった。
一種の、青春の見せた幻のようだと思っているのかもしれない。ここで本人が現れ、思い出の幻を打ち砕かれたくないと思っているのかもしれない。
だけど、もし本人がここに来ても、誰の思い出も壊さないだろう。現在の智明も、妖艶さ、中性的な色気、それらを持ち続けているからだ。
「……金原、来ないんだ」
私の近くで小さく言ったのは、背の高い男だった。
――誰だっただろう。
私はしばらく男の顔を見る。男も私のことがわからないようで、目を細めて見てくる。
「あ、谷岡?」
その名字の言い方、それを聞いてわかった。
「……鈴山、君?」
彼と会うのは、卒業式以来だった。
初めての彼氏。智明に奪われた彼氏。
別れてから、極端なほどに話をしなかった。
年月を経て、ようやく私は笑顔を向けられた。ぎこちなかっただろうけれど。
鈴山も苦笑いするように笑った。
同窓会の会場から外に出て、ぽつりぽつりと近況を互いに話す。
「鈴山君は東京の大学かあ。意外。てっきりオカマバーとかにでも行っているのかと」
「谷岡サン? ちょっとちょっと」
「だって、智明と付き合ったってことは、そういう道を進むのを決意したってことでしょ?」
昔のことは深刻にしたくなかった。忘れてしまえるような昔話、笑い話にしたかった。
現在進行形の智明には話せないことだ。
鈴山は顔をひきつらせる。
「あ、あのなあ……あれは、熱に浮かされたようなもので、その、若気の至り? その記憶は消去してくれないかなあ」
私はくすくすと笑った。
「なんていうのかな、こう、反抗期の子供が暴走族に憧れるような、そういう一時期の病気みたいなものだったんだから。実際のところ、金原に騙されたようなもんっていうか。まあ、すげえ噂になったけど、何もなかったし」
私は笑うのをぴたりとやめた。
「……何もなかったの?」
鈴山はそうそう、と大きくうなずく。
「一切何もなかったから! それだけは俺、昔の自分を褒められる。谷岡と付き合ってた頃は、金原は俺に思わせぶりなことしてきて、俺もふらふらっとしちゃって……俺たち別れることになったけど。けど、それでも何もなかったし。谷岡と別れた後も、なーんか金原、手のひらを返すように俺を避けて、自然消滅?」
あれほど優越感と怒りに満ちた笑みで『付き合うことになったんだ』と言っておいて、何もなかったと。
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