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 web拍手ss3〜過去とりんご〜 



 パトリーのりんご好きな理由――9 years ago――


 世話をしてくれた乳母はいい人だった。
 普通の貴族の娘がほとんど屋敷で育つ中で、いろいろなものを見せなければならない、と、パトリーを市場へ連れ出してくれた。
 初めて見るものにわくわくしながら、目を輝かせて山積みになった品物を見たものだ。
 しばらくして乳母は再婚すると言って、任を解かれ、遠い田舎へ行ってしまった。
 連れて行ってくれる人がいなければ外へは簡単に出られない。けれど、そのときのパトリーには市場は宝石箱のようにきらきらとして思え、たまらなかった。
 ある日、仲が良かった裏門の門番を言いくるめ、とうとう市場へ行った。
 やはりそこは宝石箱のように、夜空の星々のように、きらきらとして見える。人々は生き生きとして、活気溢れている。
 市場のシステムを理解していないながら、パトリーはなんとなく歩いて見て回った。
 しばらく歩いたらお腹が空いて、すぐそこにあったりんごを手に取り、そのままかじりついた。まるで家にいるときのように。
「嬢ちゃん、お代」
 屋台の向こうにいる笑顔の男は手のひらを上にして出す。
 きょとんとしてしまった。
 それまで自分でお金を出して何かを買う、という経験はゼロだったのだ。
 もちろんお金は持っていない。
 そうと知ると、笑顔の男は鬼のような顔になった。よく見ると男は眼帯をして、その眼帯から傷がはみだしている。かなり怖い。
「金がないだあ? てめえ、なめてんのか!」
 パトリーはびくびくとおびえ、泣き始めた。だが男はためらわない。
「泣いたって許さねえぞ。お代の分、しっかり働いてもらうからな」
 何をさせられるのだ、と思ったら、屋台の内側へ引き入れられた。
 いらっしゃいらっしゃい、と男は道行く人々を呼び止めている。
「ほら、お前もやれ」
「え」
「いらっしゃい、ってほら、人を呼ぶんだ。ほら」
「い……いらっ…しゃい……」
「声が小さい!」
「……う……いらっしゃい!」
「そうそう」
 ――大声で人を呼び止めるのは初めてだった。商品をお客さんに渡すのも初めてだった。りんごをみがいて、お客さんにきれいに見てもらうよう考えるのも。
 全部、初めての体験だった。
 そうやって汗水たらして働いて、気がつくと夕方になっていた。
「今日はよくがんばったな。ほれ、賃金がわりだ」
 眼帯の男は――そのときには彼がエディという名の船長だと聞いていたのだが――パトリーの両手で持つよりも大きい一個のりんごをくれた。
 一口かじると、じゅわっと口の中に広がる甘み。それは朝にお金も払わずに食べたりんごより、とてもおいしく感じられた。
 その日は兄のシュテファンに怒られたけれども、パトリーはそれから市場に何度も、何十回も足を運ぶようになったのだった。




 オルテスと亡霊――3 years ago――


 不機嫌だった。いや、それを通り越して、怒りすらあった。
「おれはもう帰る」
「えっ」
 世話係のルースがびっくりしたように声を上げる。
「どうしたってんだよ。お前が言ったんだろ、どうしても会いたいって。来てすぐに帰るって……」
「あんな奴と同じ空気を吸いたくない」
 オルテスの射抜くような眼差しを向けた先には、女達の嬌声の中心でげひた笑い声をあげる男――スペシネフ=ポランスキーがいる。
 パーティ自体は格式高い形式のものなのに、彼が女の尻を追い回すだけで場は乱れた雰囲気になっている。
 女をはべらせ、金を振りまく。
 オルテスが不快となる原因は、それだけでなく、スペシネフが嫌がっている女も無理に側へはべらせることであった。
「あんな男が、おれの部下であったヨナスの子孫だと……? あれが!? どこにも似たところなどない!」
 オルテスの声は苛立ちを滲ませていた。
「……もうちょっと静かな声にしてくれ」
 ルースがきょろきょろと見回して注意した。
 二人はパーティ会場の、隅にいた。中央ではスペシネフが女達と興に乗じていて、居場所がないためだ。
「そりゃ、600年あれば、血も薄れているさ。……なあ、頼むから、暴れることだけはやめろよ? ここに来る前に約束したよな。ヨナス=ポランスキーの子孫に会わせる代わりに、絶対に騒ぎになるようなことはしないって。元老院議員に頼んで、お前を塔から出して、このパーティに出席するのに、おれ、すげえ苦労したんだから……な」
 オルテスの目は剣呑であったが、彼の苦労をくみ取って、文句は言わなかった。
「わかったよ。オルテスが我慢できないってのは、わかった。予定とは違うけど、もう帰れるよう手配をしてくるから、ここを動くなよ?」
 ルースは走るようにして、パーティ会場から出て行った。
 窓からは夜の闇に塗りつぶされた木々が見える。そして、オルテス自身の姿も赤色のステンドグラスに映っている。
 ステンドグラスなんてものも、『過去』にはなかった。
 ここで自分は何をやっているのだろう。
 オルテスはスペシネフの癇に障る笑い声を聞きながら、脱力感と挫折感を味わい、全ての期待を未来が裏切ってゆく気がした。
 幼いときから共に育ち、勇敢な戦士としても共に戦場を走ったヨナスの姿が、その子孫を見ることで、汚されてゆく。それに腹が立つ。
 オルテスは過去への想いを深くして、窓から己の姿を見る。
 「!」
 驚いた。
 ステンドグラスに映るオルテスの姿の横に、ヨナスの姿がぼんやりと浮き上がってきたのだ。そして続々と、ルクレツィア、ミリー、ヴァシーリー皇王……オルテスの『過去』で見知った人々の姿が現れる。
 オルテスは横を見るが、誰もいない。しかし、ステンドグラスには、彼らはいる。
 亡霊。
 一瞬、その言葉がオルテスの脳裏にあった。が、すぐに否定した。
 亡霊、幽霊など、いるはずがない。いるのなら……どうして、今まで、現れなかったのだ。今まで会うことをずっと望んでいたのに。
 だからこれは、ただの幻覚だ。オルテス自身が会いたいと望んだゆえに、自分で作り出した幻覚にすぎない。
 そう思ったと同時に、ヨナスの姿も、他の人々の姿もかき消えた。
 ステンドグラスに映るのは、オルテス一人だけとなる。
 外からの風で、がたがたとステンドガラスが揺れた。木の葉も舞い散っている。
 しばらくそのステンドグラスを見続けていた。
 ルースが呼ぶ。
 オルテスはしばらく経ってから、窓に背を向けた。
 中央をふと見ると、まだスペシネフが女達とたわむれている。嫌がる女を追い回している様子に、オルテスは顔をしかめた。
 近くのテーブルには、フルーツが飾り物のように、そのままの姿で置いてある。
 その中からりんごをおもむろにつかむと、オルテスは上へ放り投げた。
 オルテスはそのまま、ルースの元へ向かった。
「おれがいない間、何もしてなかったよな?」
 ルースが心配そうに尋ねる。うなずいて答えた。
「当然だろう」
 二人はそしてパーティ会場を後にした。
 その後のパーティ会場では、どこからともなく降ってきたりんごがスペシネフの頭に当たって、しばらくパーティどころではなかった。




 ノアのあこがれ――7 years ago――


 ノアがグランディア皇国を訪問したとき、なぜかすぐにアレクサンドラに気に入られた。
 シュベルク国側の人間はそれを喜び、さらにノアとアレクサンドラの友好を深めてもらおうと、食事の席や散歩などをセッティングした。
 後になって考えると、彼らは婚姻のことまで考えていたのだろうと思う。
 ノアはそれを少しうっとうしく感じたけれど、アレクサンドラは喜んでいるようだし、まあいいかとも思った。
 アレクサンドラとノアは、キリグート城の庭を散歩する。もちろん二人だけでなく、ノアの護衛・イライザと、アレクサンドラの養育係であるリュインや兵士達もいる。
 巨大な噴水や巨像の説明を受けて、少し疲れたところで、端にある木に目を向けた。
 普通の、よくある木だ。
 ただ何の木であるか思い出せない。ど忘れしたのだ。
 ノアがあれでもないこれでもないと、睨むように見つつ考えていたら、
「どうしたのですか」
 アレクサンドラがノアの注意の向く先がただの木であることに、不可解そうな顔をした。
 ノアは失礼なことをしてしまったと思いながら、正直に答えた。
「あの木が何の木か、思い出せなくて」
「りんごの木ですよ」
「あっ、そうか。そうだった」
 よくある木である。花も咲いていない初夏であるので、思い出す材料が足りなかったのだ。
 二人はそのりんごの木に近づいてゆく。
「何なら、記念にりんごの木、百本でも持ち帰りますか?」
「ええ!! え、あの、そんな」
 アレクサンドラはくすくす笑う。
「遠慮することはないのですよ。わたくしは皇太子。次の皇王になるべき女。それくらい簡単にできますし、問題はありません」
 ノアはこの自信満々さがすごいと思った。
 次の皇王になるべき、なんて自分で言えるのは、傲慢とも言えるが、国のトップに立つ自信があるということでもある。
 ノアはというと、エリバルガ国に留学して、シュベルク国の政治にはまったく携わっていないし、おそらくこれからもない。玉座や地位や権力とは遠い。
 皇太子と皇子。
 近いようで、あまりに遠いあり方だ。
 りんごの木を見上げながら、ノアは数年前のことを思い出した。
「そういえば昔、りんごの木で木登りをしたことがあるんですよね」
「えっ? 木登り?」
 皇太子は耳慣れないことを聞いた、というように反復する。
「はい。学校の友達と一緒になって。枝の上から見下ろす景色は、なかなかよかったものですよ」
 アレクサンドラは、違う目の色で木を見上げた。
「へえ……わたくしもやりましょうか」
「えっ!?」
「いけません、殿下」
 ずずい、と彼女の養育係のリュインが現れた。
「殿下の御身にもしものことがあれば」
「ですが、わたくしは見上げることが嫌いなのです。それが人であろうと、木であろうと」
「ならば切り倒せばいいことです」
「そうですね。やりなさい、リュイン」
 と、とんとん拍子に、りんごの木が切り倒されることが決まってしまった。
 ノアは唖然としながら、リュインが木を切るのを見た。
 斧を打ち込む音が響く。
「ランドリュー皇子。別の場所に行きましょう」
「……いえ……俺は、これを見てます。殿下はお忙しいでしょうし、俺一人でいいですよ」
「そうですか」
 アレクサンドラはきびすを返して、行ってしまった。
 ノアはリュインの斧を振るう様を見続けていた。
 傾き、ずずんと響くように倒れた。
 それを見たとき、やはりアレクサンドラと自分とは、決定的に何かが違うのだ、と思い知ったような気がした。
 ちょっとの恐怖と、違うゆえのあこがれ。
 人の上に立つ皇族とは、彼女のように、普通ではいけないのかもしれないと思った。
「殿下は、そのままでよろしいのですよ」
 心を読んだように、イライザがノアに諭す。
「殿下は、アレクサンドラ皇太子殿下とは違う人間です。同じになる必要はないのですよ」
 ノアは少しだけ顔を明るくした。
「……うん、そうだね」
 倒木に目を移す。痛ましそうに、ノアはそれを見ていた。




 イライザのおつかい――11 years ago――


「イライザ、父上にこのお弁当を届けてちょうだい」
 家の庭で素振りをしていたイライザに、彼女の母が布に包んだお弁当を手に、頼み事をした。
「はい」
 素直にイライザは母の依頼を請け負い、着替えて城へおつかいに行ったのだった。
 イライザは今までも何度も父の職場に赴く機会があったので、城内を迷わず、父の部屋へ向かった。
 ところが。
「おや、イライザ。久しぶりですな。あなたの父上なら、部屋にはいませんぞ」
 部屋の前にはウィンストン卿がいた。父の友人としてイライザは何度も彼と顔を合わせ、話したことも何度もある。
「いないのですか?」
「儂との話が終わったら、すぐさまシュテファンどのにお会いに行かれた。どうやら少し、忙しいようだったぞ」
「そうですか……」
 イライザは、このお弁当をどうしようかと思った。
 父は位が高いもので、部下も多い。彼らのうちの誰かに預けることもできる。しかし、ふとした気まぐれから、イライザは父に直接会おうと思った。
 ウィンストン卿から場所を聴いて、イライザは再び城内を歩き出した。
 イライザにとってあまりよく知らないような、貴族の多い区域を歩く。周囲の絢爛な柱や壁に目もくれずに一直線に向かったので、すぐにたどり着いた。
 一室で父とシュテファンがまだ話し合っているということで、イライザはその部屋の前で、終わるのを待つことにした。
 お弁当を抱えるように持ちながら、背を壁に預けて、何もせずに待つ。
 シュテファンに話があって来たという貴族は、そわそわしながら部屋の前でうろついている。
 それにも気に留めず、イライザは静かに待つ。それは訓練されたようで、子供らしくない様子でもあった。
 事実、イライザは剣の稽古をし、騎士としてのあるべき姿を父から厳しく学んだ。代わりに、家庭に収まる女としてのことはあまり母から学ばなかった。母はもともと病弱であったからだ。
 扉が開いた。
 シュテファンを待っていた貴族が、勢い込んで扉の前に出てシュテファンに話しかけた。
 ところが、当のシュテファンは彼をちらっと見ただけで、イライザに視線を動かした。
「誰だ、貴様は」
 イライザは、シュテファンというのが同じ年くらいの少年であったことに少なからず驚き、さらに、かなり貴族的で冷たい印象の少年であったことにも重ねるように驚いていた。
 そのため返答をするのに時間が空いてしまった。
「誰だと訊いている。兵を呼ぶぞ」
 慌てて名乗ろうとすると、
「私の娘です」
 と父が現れた。思わずイライザは、
「父上」
 と呼んでしまって、しまったと思った。城内や仕事の場所では『父』ではなく役職で呼ぶよう言われていたからだ。
 シュテファンは父を見たら、少しだけ頭を下げた。
「あなたの娘御でしたか。これは失礼」
「いえ。娘が悪いのです」
 確かに、すぐさま名乗ればあらぬ疑いを抱かれずにすんだ。
「では、この件、よろしくお願いいたします」
 父が深く頭を下げたので、イライザも頭を下げた。
 シュテファンは尊大な態度を崩さず、そのまま歩き去っていった。シュテファンを待っていた貴族を彼は全て無視していた。
 彼が見えなくなったころに、イライザは父と共に顔を上げた。
「なぜ来た」
 父は無駄なことは話さない人だ。率直に端的に訊いてきた。
「母からお弁当を預かってきました。多分、中身はハムや卵やりんごジャムのサンドイッチだと思います」
「そうか。だが、私はこれから家に帰る。家で食べることになるな」
 父は、少し申し訳ないような顔をした。わざわざイライザがここまで来たことが、無駄になったからだ。
「いいのです。たまには父上と歩くのも、いいことです」
 父はかすかに笑った。
 お弁当は父が持って、イライザたちは家路をゆっくりと進む。

 シュベルク国首都・ライツの中央の通りを進む。馬車の通りがやむのを待って、道を渡ろうとしばらく二人は立っている。
 百貨店から、チャットウィン家のシルビアが出てくるのをイライザは見た。
 彼女は未婚の女性らしい髪型をして、ドレスを着ている。小さな箱を持っていた。それが買い物の結果の品だろう。
 シルビアとは、少しだけ話したことがある。貴族の人間にありがちな鼻につくようなところがなく、話していて気持ちの良い人だ。
「……お前は、ああいう生き方がよかったか?」
 父もまた、彼女を見ていた。
 どういう意味だろうと、不思議になりながら彼女を見ていたが、自分の姿をかえりみてみると理解できた。
 イライザは騎士としての姿をしている。ドレスは着ていないし、剣術には不向きな凝られた髪型はしていない。
 自分と、貴族の女としてのシルビアを比較して、こうやって騎士として育てられたことに悲しみはないか、と問いかけているのだ。
 イライザは即答した。
「私は騎士となりますから」
 いつか命も全ても捧げられるような主君に巡り会い、騎士の誓いを果たす。
 それはいつかはわからないけれど、いつか出会えるだろう。主君と呼ぶにふさわしい、立派で、素晴らしい方に。
 その方の騎士となり、その方のために働こう。
 父は、
「そうか」
 とつぶやき、イライザの手を引き、馬車の絶えた隙に道を渡った。




 マレクとりんごとその代金――2 years ago――


 そのとき、マレクが空腹で往来に倒れていたいきさつは、長い話となる。そして暗くてマレク自身も思い出したくないような記憶であるので、ここには語らない。
 ただ、そのときマレクは全てを失っていたということだ。
 空腹に倒れていても、絶望感があって、誰かに助けを呼ぼうという気力もなかった。
 このままでは死ぬ、とはわかっていても、どうする気にもなれなかった。
 倒れたマレクを多くの人が見下ろしていたけれど、誰もがそそくさと、面倒ごとはごめんだとばかりに、足早に去ってゆくのであった。
 マレクは過ぎ去ってゆく多くの足を見ながら、目を瞑り、もう二度と目覚めないであろう眠りの世界へ向かった。

 ところが、目覚めはやってきた。
「あ、起きた」
 楽しそうな少女の声があった。
 起きてみるとそこは往来ではなく、ベッドで、どこかの部屋の中だった。
 机の上には大きな籠がある事以外は普通の、ただの宿の部屋のようだ。
 少女は、パトリーと名乗った。行商を始めたばかりだという。
 倒れていたマレクを、宿の人にも手伝ってもらって、ベッドまで運んだという。
「お腹空いているよね。ちょっと待って」
 パトリーは籠の中を漁って、りんごを取り出した。
 宿の人からナイフを借りて、彼女はりんごを切って、皮をむき始めた。
 その手際ははらはらとするようなものである。手が切れないかと気が気でなく、マレクは目が離せなかった。
「はい、できたわっ」
 ぜえはあと息をしながら、パトリーはりんごをマレクに差し出した。もちろんながら、美しい形はしていない。
 マレクは、おそるおそる口に運ぶ。
 久しぶりに口に入れた食べ物である。
 おいしかった。
 こんなもの、今まで一度も食べたことのないような気までしたのだ。
 久しぶりに――いや、何十年ぶりに、人の優しさ、ぬくもりを感じた。
 思わず、熱い涙が流れてゆく。
「そんな、泣かなくてもいいのに。あ、言っておくけど、タダじゃないんだからね」
 金はなかった。
「それなら、その分働いてもらうわ」
 ――そして、彼女の行商の仕事を手伝うことになった。不慣れなマレクに、パトリーは丁寧にさまざまなことを教えた。
 似たように人が集まって、会社を作ることになった。マレクは副社長となった。
 パトリーは言う。
「マレク、あたしへの義理で仕事をしているなら、やめるのに遠慮することはないのよ?」
「……シャチョーさん。おれ、いらない?」
「必要に決まっているでしょう。何言ってるの」
 パトリーは怒る。
 マレクはそれを聞いて、りんごの代金を返し終わるのは、まだまだ先だろうと思うのだった。




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